街のひとつの歩き方(7)

パレルモからローカル線でアグリジェントに着いたときの話だ。一緒に降りたはずの他の観光客はいつのまにかいなくなった。駅前の広場は閑散としている。通りを少し歩き、ひなびた雰囲気のバーに入った。薄暗い天井ではカサブランカがゆっくり回っている。警察官が1人昼食をとっていた。そこで、白ワインを飲み、軽い食事をした。それにしても,出しの効いたシーフードのパスタだった。駅前に戻る。タクシーはなく、市内バスを待つことにした。日差しが強く、妻と娘は広場の端の少し離れた木陰にいる。私は本数の少ないバスが止まらないことを心配し、一人で暑さに耐え、バスストップの前に立っていた。数人の少年が妻と娘のいる木陰に加わった。そのうち少年の1人が私の方に近づいて来た。そして、「切符を持っているか」という。このしがない東洋人から切符を奪うつもりかと身構えた。心の中でホールドアップをしながら、「持っていない」と事実を答えた。すると、「バスの切符は、駅の売店であらかじめ買っておかなければいけない」という。親切な少年だったのだ。駅に戻り、バスの切符を買った。