街のひとつの歩き方(5)

広場を囲んで観光客をあてにしたレストランが並ぶ。向かい側にあるレストラン[1]ではちょっと風変わりな思い出がある。ある夜、妻と広場に向かう外のテーブルで夕食をとっていた。席はいつもどおり、妻は広場向き、私は後向きだ。隣の席に二人の男が広場向きに並んで座った。ホームアローンという映画の泥棒二人組をシリアスにしたようなタイプ。丸顔の中肉中背の男と顔が少し長い背の高い男。3月下旬。2人とも黒っぽい革のジャンパー。前者は老眼なのかモダンなちょっと派手なメガネを時々かける。後者はやや目つきが鋭い。お店の主人らしい人が親しげに注文をとる。「いつものあれとあれ」という感じだ。間もなく、広場から1人の男が来て、新聞紙に包んだ何かを渡しながら挨拶をする。日本人の感覚であれば、新聞紙の中身は当然“焼き芋”だ。また別の男が来て、何かを渡し挨拶をする。そのようなことが繰り返される。よほどのVIPなのだろう。そのうちに、見たことのない植物料理を運んできた。あまり見られているのが気になったのか丸顔のメガネの男が妻の方を向いて、愛想よく話しかけてきた。「日本から来たのか?」「この季節、ローマで一番美味しい料理を教えてあげよう」「カルチョフィだ」わからないでいるとスペルを教えてくれた。「ローマ風とユダヤ風がある」テーブルの上の植物料理を示し、「これがユダヤ風だ」という。アーティチョークという植物の若いつぼみ部分を丸のまま、揚げた料理だ。自分たちはシチリアから来たのだと言う。数年前にシチリアパレルモやアグリジェントに行ったことがあると言うと、「アグリジェントはいい所だ。自分たちはその傍のコルレオーネだよ」と言う。思わず、あの映画ゴッドファーザー[2]の・・・と言いかけたが、飲み込んだ。そう言ってしまったら、何と答えてきたのだろう。

 

[1] Ristorante Di Rienzo

[2] コルネオーレ:中世以来の古い歴史を持つ都市であるが、20世紀初頭以降著名なマフィアを“輩出”した土地として知られる。小説・映画『ゴッドファーザー』では主人公一家がこの町に因む姓を名乗っている(ウィキペディア