街のひとつの歩き方(4)

石畳の道、トランクを転がして歩くのは少し注意が必要だ。30年位前、フィレンツエに着き、ホテルを紹介してもらおうと駅の案内窓口に並んでいると、一人の少年が近づいてきた。「ママがやっているホテルへ案内する」と誘ってくれた。窓口までは長い行列だったので、ついて行くと小さいがアットホームな感じのホテルに案内された。屋上のベランダに登ると煉瓦色の町並みが美しい。しかし、夜眠れなかった。下水の臭いが立ちこもってくる。翌朝、ミシュランのガイドブックで、別の安いホテルを見つけ、重いトランクを転がして移った。途中の石畳で見事にトランクの車輪が壊れ、蓋も開いてしまい、洗濯物がはみ出た。

 

パンテノンの傍の現在のホテル[1]は素晴らしい。フロントはとても親切だ[2]。パンテノンの前のロトンダ広場が眼下にある。窓をあけて昼寝をしていると、アコーディオン弾き、チェリスト、バイオリニスト、トランペット吹きとつぎつぎと大道芸人の音楽が聞こえてくる。アコーディオンリベルタンゴ、トランペットはゴッドファーザーなど、曲目は観光客向けだ。しかし、音楽に造詣のある友人夫妻と一緒に同じホテルに泊まった時、演奏のレベルはとても高いと評価していた。観光客もそれぞれの芸術家の腕の違いがわかるらしい。演奏家を取り囲む客数と拍手の度合いが違う。バイオリニストが最も上手らしい。アコーディオン弾きは金髪の美しい女性だ[3]。あまり拍手は多くない。それでも、私はその女性のCDを買った。美しいアコーディオン弾きは、思ったより、はにかんだような話し方をする人だった。

 

 

[1] Albergo del Senato

[2] 以前、妻がチェックアウトしようとすると,“Why? You can’t.”と怪訝そうな顔をする。帰らないでという冗談だったのだ。

[3] Gintarė Akstinavičiūtė. Accordion. Tango. Piazza Navona. Roma. Italia. https://www.youtube.com/watch?v=AizfERhouGc