街のひとつの歩き方(19)

青の洞窟前にはすでに多数の客を乗せた数隻の観光船が停泊していた。そこから、2-3人ずつ、小舟にのりこみ青の洞窟に入る。待たされることを覚悟したが、すぐに小舟が近づいてきた。小舟の男は、「終わったら仕事に応じて私にもお礼を」と説明する。海に浮かんで揺れている切符売り場で、揺れる小舟から料金を払い、洞窟に入った。洞窟には海面下にある隙間から太陽の光が入り、青い空と同じメカニズムで水が紺碧に映る。数分間過ごし、洞窟を出る。早く乗せてくれたお礼も含めてチップを払った。アメリカと違い、イタリアではチップは義務ではないというが、気持ち良く旅行しようとすると、チップの額を考えてしまう。いつも、旅の終わり、空港に着いたときに真っ先に浮かぶ感慨は、もうチップのことは考えないで日本に帰れるという小さな安堵だ。港に戻る途中、船乗りに誘われ、娘は地中海に漂った。