街のひとつの歩き方(12)

チンクエ・テッレを旅した時だ。チンクエ・テッレは海岸沿いに並ぶ5つの村(チンクエ=5、テッレ=村)。各々の村には、色とりどりの家々が海岸沿いの崖に重なり合って並ぶ。それぞれの家が別々の色に塗られているのは、男が漁からから帰った時にすぐに自分の家族が待つ家が見つけられるようにするためだ。ローマからラ・スペツィアまで行き、 そこからは5つの村を通るローカル線を利用する。村の間を海岸沿いに歩くこともできる。ラ・スペツィア駅で,チンクエ・テッレ間を数日利用できる周遊券のような切符を購入した。西北端のモンテロッソ・アル・マーレに三泊し、その村からラ・スペツィアへ帰る列車を待っている時だ。間もなく列車が来るという頃、妻が切符を紛失していることに気付いた。切符を改めて買う時間はない。私は一本遅れて、もう一度切符を購入することも提案したが、妻は検札を受けても、説明すれば分かってもらえるといつも通り楽観的。しかし、私の英語は中学校1年二学期程度。以前、小さな客船のバーで隣に座ったヘミングウエイ風の男性に”Where is your English?”と叱咤されたほどだ。イギリス人かと尋ねた時、「大事なことを教えてあげる。そう尋ねたらスコットランド人が怒るよ」「私はスコットランド人だ」というような歯に衣着せぬ人だった。次の列車では、ラ・スペツィアからの、予約してある乗り継ぎ列車にも間に合わなくなる可能性もあり、そのまま列車に乗り込んだ。3日前、チンクエ・テッレに向かうときはなかった検札が来た。妻が何とか説明しようとする。車掌はノーと言うばかり。数ユーロの切符のところを、50ユーロの罰金を払った。